2023年2月4–8日

2月4日 土曜日

昼間に起きる。下北沢で意味もなくリングを買う。大学のサークルの同期がたまたま下北沢にいるストーリーを上げているのを見て、うけるので数年ぶりに会った。煙草を吸った。先方は大学時代よりなんかやさぐれていた。煙草一本分の時間は互いの近況を報告するのにちょうど良い。

DORAMAの店先にある100円棚を見ていたら川上未映子『ヘヴン』が入っていたので買う。そしたら20%引きの日だったらしく、税込88円だった。本の価値というのはいまひとつ経済的な合理性を離れている感じがする。

小田急で帰るのが無難なんだけど井の頭線に乗って渋谷へ。iPhoneのケースを新調する。買い物しすぎかな? と思ったけれど、ケースはここ1カ月くらい買い換えようと思っていたので、どうせいつか買うことになるなら今買った方がお得という論理で買った。どの道、そこまでの出費ではない。

クリアケースは黄ばむし、私は黄ばんだらすぐに変えるほどまめな人間ではないので、今度はシリコンにする。

2月5日 日曜日

東京の西郊にある、実家のある街へ向かう。京王線で行くのが無難なのだが、小田急とJRを乗り継いでいくことにする。途中登戸のドトールへ。ここは未だに煙草が吸える。

パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』を読み終わる。どんどん面白くなってきて、というと、エンターテインメント的なものを想像するかもしれないが、そういう感じではなくて、なんとなく離れがたいような感じで、それでドトールにいすぎてしまった。母親に、ごめん十分遅れる、とLINEする。

母親と、母方の祖母、それから伯父が集まる予定で、行ってみると妹も来ていた。伯父に会うのは五年ぶりくらいで、たぶん話すのは十年ぶりくらい。

私はどのような見地からもあまりまともな人間とは言いがたいのだが、そのまともでなさはこの一族の血なのだな、と思う。血は争えないとはよく言ったものだ。私は実の父親の顔を知らないが、母親と伯父も自分の父親の顔を知らない。そして伯父は、自分の顔を知らない子供を何人か持っている。そういう家系である。

この場にいない親族も含めて、皆があまり人聞きの良いとは言えないエピソードを持っている。そしてまた、皆が「いろいろあったけれども、今はとりあえずなんとか人並みに暮らしている」という状況に落ち着いている。それはとても恵まれたことだと思う。私も先のことは知らないが、幸い今のところそれに近い。

私は母方の人間で唯一大学に進学したので、少し毛色が違うところがあると見られているのだが、まあ大学をやめてしまったあたりに、十分そうした性向が受け継がれていると言えるだろう。

私とは父親が違う妹は、母方の親族にはほとんど会ったことがない。私もほとんどないが、一応一通り顔を合わせたことくらいはある(二十年近く前の話だが)。また私は幼い頃祖母に育てられたので親戚の話は結構聞いたものだが、妹は名前もぴんとこない人たちの話を聞かされて退屈そう。それでなくても中学生というのは、一番そういう話がどうでもいい、むしろ反発さえある時期だと思う。

帰り道、少し散歩したかったので笹塚で降りる。写真を撮りながら歩いているうちに気分が乗ってきたので、幡ヶ谷を経由して代々木上原まで歩いた。代々木上原ですごくいい古本屋に行き当たってしまったが、一冊しか買わずに済んだ。そこから小田急に乗って帰った。

夜、松本俊彦『誰がために医師はいる——クスリとヒトの現代論』を読み終わる。とても面白い。

2月6日 月曜日

朝起きると役所から留守電が入っていて、障害者手帳ができたので受け取りに来いとの由。たしか、11月の始めに申請したのでだいたい3カ月くらいかかったことになる。適当に仕事をして、昼休みに役所へ行く。結構春めいた陽気で、このままどこかへ行ってしまいたいなと思う。

障害者手帳については、いくらか思うところがあるので、別のところに書く。

受け取ってからついでに出社したら、ある社員から感情的な振る舞いをされて、それは正直八つ当たりとしか思えず、傷つくし腹が立つ。職場でそうした人に振り回されるのは本当に馬鹿らしい。なんで、いい年した大人の機嫌を取らないといけないのだろうか。

結構しばらくそういう振る舞いとは無縁の生活を送れていたのだけど、まあ、世の中にはそういう人もいますね。私もいろいろなことが足りていないので、他人の足りなさを糾弾したくないが、でも面倒だ。何も考えないように仕事を熱心にしたが、退勤してからいろいろと考えてしまい、眠れなくなる。恋人や友人に話を聞いてもらう。

2月7日 火曜日

少し眠って冷静にはなったが、冷静になったので、昨日の件と、別件も含めて上司の耳に入れておくことにした。私は人間ができていないので、自分が我慢すればよい話だから、などとは思わない。でも、昨日の件と別件との両方がなければ、告げ口はしなかった気がする。上司は、とりあえず話を聞いてくれる。別に大事にしたいわけではないので、さしあたりはそれで十分。

私は学生の頃、人に雇われずに小遣いを賄っていた時期があったのだが、夜、そのときにした仕事に関して顧客からトラブルが起きたと相談を受ける。結果として私には責任のない、全然別のことが原因とわかったのだが、今度はその原因に関して知見を求められる。それについては別途相談料をお支払いいただきたいところなのですが、と思うが、まあいいやと判る範囲でいくらか話す。

宮仕えは厄介だが、宮仕え以外も厄介だということを思い出したので、よかったと言える。どうせ厄介なら職掌と責任が分担されているだけ宮仕えの方がよいと今は考えている。

2月8日 水曜日

ご飯をUber Eatsで頼んでしまう程度に気力がなかったが、退勤して湯船に浸かったら元気になってきたので、日記を書く。指輪がさっそくどこかに行ったが、家にあるのは確かで、捨ててはないのでどこかにはある、という、いつも適用している論理のおかげで、特段ショックでもない。物をなくすことには長けている。